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日本医師会 COVID-19 有識者会議






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新型コロナウイルスの唾液PCR診断

豊嶋 崇徳 北海道大学大学院医学研究院血液内科学教室 教授
COI: なし​




2020-05-19 診療

注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

新型コロナ感染対策として、PCR検査を拡充することは、早期診断、感染拡大防止、規制緩和出口戦略の策定などのための国家的な喫緊の課題である。そして、現状では、スワブを用いた鼻咽頭ぬぐい液が用いられるが、スワブ検査の実施は、医師、看護師に限られ、人員確保は困難であった。
唾液検査は、鼻咽頭ぬぐい液と比較するとまだ経験は少ないが、検体採取の大きな障害であった採取場所、採取者、防御具が不要となるメリットがある。
北海道大学では早くから、唾液検査の評価を行っており、発症1-2週以内であれば、鼻咽頭ぬぐい液と結果が一致することが多いとの結果を得ている。なお、海外の論文では、鼻咽頭ぬぐい液でPCR陽性の症例の85~100%の症例で唾液のPCRも陽性との報告となっている。
このように唾液検査は、将来の大きな展望の入り口になるものと期待される。

PCR検査の現状と問題点

新型コロナ感染対策として、PCR検査を拡充することは、早期診断、感染拡大防止、規制緩和出口戦略の策定などのための国家的な喫緊の課題である。国立感染症研究所の検体採取マニュアルには、検体採取は下気道由来検体、鼻咽頭ぬぐい液と指定されている。実際、ウイルス性肺炎である新型コロナ感染症では、喀痰が出るのは30%以下であり、特に早期の例では喀痰はとれないことがほとんどでスワブを用いた鼻咽頭ぬぐい液が用いられる。

スワブ検査の実施は、医師、看護師に限られ、また感染リスクもあるため、その人員確保は難しい。検査に要する防御具も不足している。人員・防護具の不足している状況でPCR検査の拡充を図るのは極めて困難であり、より安全、簡便な検体採取法の確立は急務の課題である。
唾液検査の可能性

新型コロナはアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)の受容体に結合し、人体に感染する。このACE2は気道以外にも消化管にも広く発現が認められる。口腔粘膜にも発現が多く、中でも舌に多い。おそらくそのために、発症前から唾液を介しての感染力が強く、味覚異常といったインフルエンザではみないような症状がみられるのではないかと考えられる。そうであるならば、唾液でウイルス検査を行える可能性がある。2020年2月、香港のグループから新型コロナ患者12例全員で唾液でもPCRが陽性になったとの論文が発表された[1]。次いで4月にイタリア、5月にはアメリカ、オーストラリアと、同様な報告が相次ぎ、鼻咽頭ぬぐい液陽性者のうち唾液でも90%程度がPCR陽性と考えられる【図表1】。一方、これらの研究の多くは、鼻咽頭ぬぐい液陽性者が対象となっており、実際には鼻咽頭ぬぐい液陰性者にも唾液陽性がみられる。たとえば米国エール大学の研究ではマッチ検体において唾液のみ陽性が21%、鼻咽頭のみ陽性が8%であり、ほぼ同等の陽性率と考えてよいと考えられる[2]。

図表1

海外からの報告

主な報告のデータをまとめた

わが国では、北海道大学病院で4月に鼻咽頭ぬぐい液陰性、唾液陽性の患者を経験し、臨床研究を開始した。その結果、症状発症後2週間以内であれば鼻咽頭ぬぐい液、唾液でのPCR陽性率は11ペア検体で一致した。これらの結果から唾液PCR検査の妥当性は確立され、米国の一部の州を皮切りに、香港でも行われるようになった。

唾液と鼻咽頭ぬぐい液検査の比較

唾液と鼻咽頭ぬぐい液を比較した研究は2つある。

米国エール大学の研究では唾液、鼻咽頭ぬぐい液ともに症状発症直後がもっともウイルス量が多い[2]。またウイルス量は唾液で約5倍高いと報告している。

一方、オーストラリアのグループでは逆に鼻咽頭でウイルスが多いとしている[3]。

北海道大学の検討では、発症早期には同等であるものの2週間以降になると次第に唾液でウイルス量の減少が早い傾向がみられた。このような相違がみられるのは採取法や希釈など検査法の違いが関係していると考えられ、発症1-2週以内であれば、ほぼ同等と考えてよいと考えられる。

一点、私個人が注目しているのは、北大例において、退院、転院前の陰性確認検査において、症状が軽快しているにも関わらず鼻咽頭ぬぐい液でPCR陽性が続く現象である。最近の韓国の報道によるとこのような鼻咽頭陽性例は死滅したウイルスの断片を感度の高いPCRが捉えているというもので、感染リスクはないと論じている。

北大例の検討では陰性確認の際に唾液陰性、鼻咽頭陽性をしばしば経験することで、口腔内は唾液によるクリーニング効果によって擬陽性が少ない可能性も考えられる。将来的に退院時の陰性確認検査を唾液で行うことも検討する必要がある。
唾液検査は医療現場に何をもたらすか?

唾液採取は通常の喀痰採取用の滅菌カップがあれば実施可能であり、特別の備品や容器を必要としない【図表2】。したがって、クリニックでも十分検査が可能となる可能性がある。

図表2

唾液採取容器

唾液採取に用いる喀痰採取用の滅菌カップ

このように唾液検査が可能になれば、検体採取の大きな障害であった採取場所、採取者、防御具が不要となり、PCR検査増加を可能とする第一歩を踏み出すことになる。

新型コロナ疑い例ではドライブスルー検査体制が全国各地に整備されているが、日本では採取者が医師や看護師などに限定されているため、人材確保が困難な状況にある。唾液検査になるとそこでカップを渡して、所定の場所に置いてもらうだけなので、専門医療者もいらず、感染リスクも減少する。また、疑い例以外にも医療現場では、院内感染を防ぐため、手術や処置、分娩などの前にPCR検査を実施する動きが広がっている。そうなると、各病院で大量の検体採取が必要となるが、ここでも採取場所、採取者の確保、防御具不足が問題となっている。

唾液であれば、所定の場所で渡して、所定の場所に置いて帰ってもらう対応で可能である。例えば、輸送方法が確立されれば、遠隔地からの入院予定の患者さんに外来受診時にあらかじめ採取容器を渡し、宅急便等で郵送することも可能となる。

さらに将来を見据えると、より精度の高い抗原検査キットで唾液を用いて検査できるようになると、迅速、簡単にどこでも検査ができるようになる。このように唾液検査は、将来の大きな展望の入り口になるものと期待される。

その他の主要な参考文献・ガイドライン
[引用文献]

1. Clin Infect Dis. 2020 Feb 12. pii: 5734265
2. medRxiv preprint 2020 Apr 22. doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.16.20067835
3. J Clin Microbiol. 2020 Apr 21. pii: JCM.00776-20














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